2015年10月 に 何が起きるのか?
― 3月初旬あたりから広報活動が本格的に始まりました。上戸彩さんとマイナちゃんによる CM や、公式ページもできましたね。 反応はいかがですか。
浅岡 やはりコールセンターのコールが劇的に増えましたね。
― 一部報道では2月の時点で国民の7割が知らない、なんて報じられていましたけれども。
浅岡 そこは、3割も知ってるんだっていう捉え方もできる。
一般的な政府の他の政策と比べても、決して認知度が低いわけじゃないんです。
3割知ってりゃ十分なんていったら怒られるけど。今の時点だったら悪くないと思いますよ。
たとえば、みなさん、税金を払っています。
毎年、税制改正が行われているけども、じゃあ、今年の税制改正で何が変わったかご存じですかと聞いたって、たぶん、認知度は
もっと低いんじゃないでしょうか。
― たしかに。
浅岡 まあ、知られていないことをこっちから出して、マスコミに取り上げていただいたおかげで、すごく効果がありました(笑)。
けしからん、もっと広報をしろといわれ、上戸彩さんが出てきたら、今度は広報費使いすぎだとか言われていますけど。
とはいいつつも、知りたいと思う方には いろいろ知ることができるようにしています。
― ウェブサイトもかなり充実していますね。
浅岡 あれでも、まだまだわかりづらいと思っていて。
だけど、たぶん、情報公開度で言えばかなりオープンです。なんでも出しますから。 今日もすっぽんぽんにされる覚悟です (笑)。
― そうですか(笑)。では今日はいろいろ聞かせていただければと思います。
10月に通知、1月に利用開始というマイルストーンが発表されていますが、それは予定通り進んでいますか?
浅岡 ええ。予定通りです。
― 想定される懸案事項などはありますか? たとえば、通知の戻りハガキの心配はないですか? 別の人に届いたりとか?
浅岡 まず、簡単に仕組みをお話すると、住民票の住所に番号の通知カードが送られてきます。
それは簡易書留で送られてきます。なので、ハガキじゃないです。
簡易書留は高いので、世帯ごとに送ります。だから、3人家族だったら3人分の通知カードがひとつの封筒に入っていて、番号の取説みたいなのが入っていて。
で、いいですか、次が大事なんですよ、個人番号カードの申請書類が3人分、プレプリントされた状態で入っています。
そういう書留が、10月の早いところで中旬、遅いところだと10月末、ひょっとしたら、郵便屋さんの都合によっては11月1日とかになるかも、みたいな、
そんなイメージです。
― 郵便屋さんも心して早めに配ってくれそうですよね。
浅岡 いやあ、1年分の書留がいきなり送られてくるわけですから、大変だと思いますよ。
たぶん、内勤の人も回ると思います。昼間って家にいない人が多いじゃないですか。そうすると再配とかいって、夜とか土日とかに指定されるじゃないですか。
これは大変ですよ。
郵便局の人は総出で回ることになるかもしれません。
― 郵便局のみなさんはすごく大変そうだけど、書留だしちゃんと届くだろうと。
で、その申請プリントを持って役所に行けばいいんですか?
浅岡 違います。 そのプレプリントされた申請書、個人番号カードの申請書ですね、 もちろん、これは強制ではないのですが、まあ、役所としては、みなさん、顔写真つきの 個人番号カードを取ってください、ということなので、 申請書にですね、ピっと、自分の好きな写真を 添付してもらって ……
― え、自分で撮った写真でいいんですか?
浅岡 宴会で撮ったやつとか、ピクニックの写真とかはだめですよ。 いちおう、パスポート用とか証明写真のようなやつを貼ってもらって、返送してもらえれば、1月以降に 役所から「カードを取りに来て下さい」ってハガキがくるので、それを持って 役所に行く。そういう流れです。
― 住基カードを取得する時には、役所で撮ってもらえましたが、今回それはなしですか?
浅岡 なしです。 でも、写真を撮りに行くのも面倒くさいじゃないですか。だからスマホで自撮したやつで、ちゃんと撮れればOK、みたいな ……
― えええ! スマホの自撮でいいんですか?!
浅岡 しかもね、スマホからプリントアウトして返送するんじゃなくて、 QRコードをスマホでピッって読み取って、自撮した写真と一緒に申請。 そういうことを今ちょっと考えています。
― すごい。そんなことができるんですか …… ということは自分で何度も「奇跡の1枚」を撮るために試行錯誤できて ……
しかし、今は自撮を美しく加工するアプリなども出回っているので、自己申告の顔と実際の本人との乖離が ……
浅岡 そうそう。それから、変顔とか、背景が映っているとか、そういう写真では カードを作れないので、それをはじくというか、写真によっては 申請を受け付けられません、みたいにしないといけないので、今そういうテストをやっています。
― どのあたりまで加工をよしとするのか、っていう問題が ……
浅岡 カードを渡すときには、本人確認をして渡すんですけど、とびっきりいい写真でいってしまうと、 本人だとしても、本人だと視認できませんってこともありうる。
― 盛り過ぎです、みたいな。
浅岡 でも、それを市役所の窓口の人にジャッジして言わせるのって酷じゃないですか。
― 「写真と実物が違うのでダメです」なんて言えない。
浅岡 だけど、それをやらないと、なんのために視認で本人確認して渡すの?ってことにもなるじゃないですか。 だから、簡易顔認証みたいなやつを入れようかなって。
― 市役所の人じゃなくて、機械が判断するのだ、と。
浅岡 そうそう。市役所の人もいるんですけど、「こいつ(顔認証)がダメだと言っているんで、すみません」と。 そういう風にできたらな、と思っています。
― その機械は全役所に導入するんですか?
浅岡 機械と言っても、普通にPCでもタブレットでもあれば、アプリ入れれば大丈夫なので。
精度のテストが難しいんですけどね。人が見て感じる違和感と同程度である必要があるわけです。
「これ、本人だろ」っていうのを「ブー!」ってなってもいけないし、「これは……ちょっと違いすぎじゃないの……?」っていうのは、「ブー!」ってなって
ほしいじゃないですか。
だから本当は、担当者がこっそり押せるボタンがあるといいのかもしれません(笑)。
マイナンバーの 秘密、活用加減
― 市区町村の反応はいかがですか。
浅岡 市町村の人にきくと、けっこう、カードを取りたいっていう市民は多いので大変ですよ、みたいな話はあります。 おそらく、窓口だけでは対応できないので大変でしょう。
― 確定申告のように特別会場を作る?
浅岡 やんなきゃいけなくなるところはでてくるでしょうね。
― 何課に行けばいいですか?
浅岡 そのへんは、市区町村それぞれの実情があるので、基本自治体ごとの対応によるんですけど、住民の多い都市部の自治体では
窓口だけじゃ無理でしょうねえ。
だから、選挙みたいに、ハガキを送ってどこどこに取りに来てください、とか。たとえば、公民館で朝8時半~夜9時までやっているので取りに来てくださいとか。
あと、土日もやらないと対応しきれないところがでてくるかもしれませんね。
― 確定申告だって選挙だってあんなに大変なのに ……
もちろん、国民全員が来るわけではないにせよ、だいたいどれくらいの人数が来ると見積もっていますか?
浅岡 確定申告が、だいたい、1月下旬から1ヵ月半くらいで、2千万件くらい申告書って出てくるんです。 確定申告の場合、みんながみんな税務署にくるわけではないですけど、マイナンバーカードで我々が考えているスタートは、3カ月で1千万枚です。 なので、まあ、確定申告並みの大変さかと。
― 手続きは、確定申告ほど煩雑ではなさそうですね。ネックはさきほどのお話に出てきた顔の視認くらいでしょうか。
浅岡 それがね、パスワードを入れてもらうっていうのがあって …
― ああ ……
浅岡 パスワード入れてもらう。 その、パスワードをね、考えてきてくださいね、ってあらかじめ言っておかなきゃいけない。
― それは自分で考えるんですか? 最初から与えられるのではなくて?
浅岡 そうです。
― 何桁ですか?
浅岡 2種類あるんですよ ……
― なんと。
浅岡 4ケタの数字と、6ケタ以上の英数字の組み合わせの 2種類です。
― それは大変ですね。どっちも考えないといけないんですか? どちらかではなく?
浅岡 そうそうそう。 その場で考えてたら、けっこう大変じゃないですか。
― そのパスワードって、いつ使うんですか? その発行してもらうときに使う?
浅岡 いやいやいや、いろんなところで 使いますよ。
― 忘れたらどうするんですか? まさか、秘密の質問的な ……?
浅岡 忘れたら、また変えるしかないですね。
― パスワードあるのは大変ですね。 赤ちゃんからお年寄りまで パスワードを考えなくてはいけないとなると ……
浅岡 だって、これから、個人番号カードの公的個人認証の仕組みを オンライン認証に使っていきましょう、民間の取引にも開放して使えるようにしましょうって 話なので。
― そういう話だったのですか。
浅岡 ええ。 将来的には、銀行のキャッシュカードとかクレジットカードとか、「私は個人番号カードと統合するわ」っていう人には そういったこともできるようになり、財布の中のカードの枚数を減らせるかもしれません。
― なるほど。
そもそも、マイナンバーの秘密加減っていうか、たとえば、会社員は会社に自分のマイナンバーを教えるじゃないですか。会社側は
それを洩らしたら刑事罰だとかいうじゃないですか。
でも将来的には民間でも活用というじゃないですか。
要は見せていい番号なのか 隠したほうがいい番号なのかっていうあたり、どのくらいの重要度なのか ……
浅岡 それは見せなきゃいけない人には見せていいけど、むやみやたらに見せる番号ではないので、
むやみやたらに見せるとリスクを高める、と。
クレジットカード番号を見せて歩きますか?っていう話。
それから、刑事罰というのは、会社が安全管理措置を講じていなかったり、従業員が故意に漏らした場合に対象となります
という話であって、なんでもかんでも漏らした即刑事罰ということではありません。
― なるほど、クレジットカード番号くらいの 秘密・活用加減であると。
浅岡 まあ、キャッシュカード、銀行口座の番号くらいかな、と思って …
だから、取引先とかね、顧客とかね、聞くのは聞いていいんですよ、必要に応じて。
だけど、会社の中で、関係のない人が
関係のない人のマイナンバーを見れるような 状態になっていたら、会社の 安全管理措置としてどうなの? という話になります。
そこはちゃんとアクセス制御できるように しなきゃいけません。
経理の担当者は 全員分見られる。 現場の人間は
自分の担当している取引先の番号を聞いてきて、入力することはできるけど、入力されているものを 閲覧できるようにしちゃいけない、とかね。
― そうなると、企業でも自治体でも、アクセス管理 変えなきゃとか 出てくると思うんですけど、これは 大変なんですか?
浅岡 それは、銀行とかだったら もうやってる話じゃないですか。
顧客情報にアクセスしたら 今でもログを取ってるわけですよね、全部。そういうところは、マイナンバーがどうこうって 話もないですよね
― ふつうの企業は どうですか? 対応は大変そうですか?
IT業界は盛り上がりますか? マイナンバー対応ソリューションとかいって、今まさに盛り上がらんとしているのですが ……
浅岡 要するに どこまでやんなきゃいけないのかっていう話ですね。
これは、それぞれの組織で判断しなくちゃいけないんです。
民間の事業者は、義務付けられていないけど、プライバシーインパクト、プライバシー影響評価みたいなものを、各社で
やったうえで、どこまでやるの?っていう 判断を しなきゃいけなくて、一律で「こうやってればセーフ」「これはアウトです」とかっていう
事前規制の世界の 話ではないんですよ。
産業界のみなさん、それぞれ事情が違うんだから、実情に合わせ 十分にやっていただければ、いいですよ、と。
そういう仕組みになっています。
当然、万が一、事故が起きたら 指導やペナルティを受けることにはなりますが。
― 結局のところ、企業はどんな影響を受けるかというのは ……
浅岡 事業者によって全然ちがうんですよね。
基本的には 今、税務署とかハローワークとか年金事務所とかに 企業が出している書類、提出物に
番号がつくだけなので、新たに番号制度が入るから こういう提出物が増えますとか、そういう話じゃないんですよ。
むしろ、内部管理の問題で、番号がない世界だったら 営業の担当が管理して、みんながシェアしていても大丈夫だったものが、番号が入っても
それ大丈夫ですか? プライバシーインパクトは大丈夫ですかっていう 視点で考える。
そうしたら、それは 営業に管理を任せるのではなくて
経理部門に 管理の主体を移して、営業は入力するだけ、情報の管理自体は 最終的に帳票を出すのが経理だったら 経理でやりましょうとかね。
そういう風に 運用を変えましょうとか、そういうことは 会社によっては 出てくると思います。
それは あらかじめそういう検討をしておかないと 間に合いませんね、と …
あと その、給与システムに 番号の欄を追加しなくてはなりませんねっていう 話は
あるんですけども、だいたい 中小企業でも、弥生会計とか、勘定奉行とか パッケージソフトを使っているところが 多いじゃないですか。
ああいうのは、各社 通常の税制改正対応のリニューの中で 対応することになっている 場合が 多いと思います。
― メディアが煽るほど 企業も混乱しているわけではない、と。
浅岡 多くの企業は ほとんどが、持つ番号って 従業員の番号なんですよ。 従業員の番号以外に 顧客や取引先の番号を持つ ところは やはり、どれだけ持つのかによっても 対応は 全然違うでしょうね。
― プライバシー影響度評価をして、ということですね。
浅岡 たとえば 5人の町工場みたいなところで 紙で管理しているようなところだったら、システム制御も何も あったもんじゃないと思うし、なんか やんなきゃいけないかっていったら、シュレッダーがなかったら買いましょうとか、のぞき見されないように 注意しましょうとか、その程度の対応で 大丈夫ではないかと思います。
ミスター・マイナンバー の こと
― 企業や自治体、国民の対応などについて ざっくりうかがったところで、少し、閑話休題です。
今回の記事は「作った人に聞いてみた」ということで、浅岡さんご自身のことについても 聞かせてください。
浅岡 大したことしてないですけど(笑)。
― ずっと社会保障改革担当室に?
浅岡 まだマイナンバーという言葉がなかった頃から、もうかれこれ5年くらい 関わっています。
当時は 共通番号制度が必要ですねとかって 言われていた時代ですよ。
社会保障改革担当室ができたのが平成22年の10月で、そのときの 立ち上げメンバーの一人です、と …
で、私もそうなんですけど、私の上司の、これは よくいろんなところで出ている 向井っていうのがいるんですけど …
― 『 ニッポンの個人情報 「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ 』にもたびたび登場する“向井審議官”ですね!
浅岡 ええ。 私と向井がセットで 10月の立ち上げ時に 召集されたんです。 僕らは、もともと財務省にいました。
― 社会保障改革担当室っていうのは、何をするところなんですか?
浅岡 2つのプロジェクトチームから 構成されています。
まずは、消費税の増税を決めたりっていう、社会保障と税の一体改革をやっていくっていうプロジェクト。
それから、マイナンバー、番号制度を作っていくプロジェクト。
部屋は1つなんですけど 2つのプロジェクトチームがありまして、その 番号プロジェクトチームのリーダー的なものとして
向井が就くにあたって、向井と一緒に 手足となってお前もやれ、ということで 10月に立ち上げと同時に やってきました。
― 財務省では何をやっておられたのですか?
浅岡 財務省の主税局ってところで、国税通則法という法律の改正の準備を ちょうどしておりまして。
国税通則法って、名前の通り、所得税法とか、ナントカ税法とかってあるんですけど、その共通部分、共通の税法に 横串を刺す法律なんです。
戦後にできてから抜本改正したことないみたいな 法律だったんですよ。
それを 政権が変わって、抜本的にやりましょうと。
じゃあ、どういうふうなことをやっていきましょうかっていう 検討課題のひとつに 番号制度っていうのがあったんです。
当時は「社会保障と税の共通番号制度」と呼ばれていまして、「共通番号制度」って 民主党がマニフェストに書いていたりも していたんですけど、それを
税の立場から検討するという仕事の 担当補佐をやっていたんです。
― なるほど。 その流れで、向井さんと一緒に 社会保障改革担当室の立ち上げメンバーとなられたのですね。
浅岡 この番号制度が これからちゃんとうまくいったら、「俺が作ったんだ」っていう人が いっぱい出てくると
思うんですが(笑)。
本当に今の番号制度のもとになった 概念っていうか、それを作ったのは 私ではなくて、私もかなり、肉付けをしていきましたが、本当の
骨子、基礎の基礎を 作ったのは 当時、国家戦略室っていうのが あってですね、そこに来ていた
相澤豪さんっていう 弁護士さんなんですよね。
相澤さんが 孤軍奮闘して、本当の礎を 作ってくれていました。
役人の中で功労者といえば、私の上司の 向井でしょうね。
だって役所の幹部で 5年も同じ担当を続けられる人なんて いないじゃないですか。(笑)
― むしろ 5年もいられるんだ、というのが驚きでした。キャリア官僚の方は 2年で異動になるのかと 思っていました。
浅岡 基本は 2年で異動ですよ。5年も同じ仕事を続けているなんて、いないですよ(笑)。 ふたりだけです。 例外中の例外です。
新法を 作るつもりじゃなかった
― 浅岡さんの人となりが少しずつわかってきたところで、話をさらに掘り下げてまいりたいと思います。
個人情報保護法とマイナンバー制度の 関係についてお聞かせいただければと思います。
浅岡 マイナンバー法って 個人情報保護法の特別法なわけですよね。
― え、そうなんですか。 似ているけど別の法律なのかな? みたいに思っていました。
浅岡 いえいえ、マイナンバー法というのは、個人情報保護法の 特別法なんですよ。
― 特別法というのは?
浅岡 例外を規定した 法律です。
マイナンバー制度っていうのを作るときに、どういう法律の建て付けにしようかっていうことを まず考えたわけですよ。
結果として、新法でやったわけです、個人情報保護法の 特別法という形で。
だけど、本来であれば、最初から 個人情報保護法と住民基本台帳法の改正で マイナンバー制度を作ることも できたわけですよ。
― そうだったんですか!
浅岡 だからね、今回の 個人情報保護法改正で
第三者機関を作ることも 含めてですね、マイナンバー法を作るときに すでに出てきていた話なんですよ。
機微情報を入れるっていう 話も、医療の特別法を作りましょうみたいな
議論は、もともと 個人情報保護法を作るときからあったし、マイナンバー法を作るときもあった。
で、結局厚労省で検討しますといって、検討はしたけれども 実際問題として、医療の特別法の形はできませんでした。
で、それはある意味、今回 機微情報というのを 要配慮個人情報として、一般法である個人情報保護法の中に 位置づけることによって
医療情報の特別な取扱いみたいなものを 規定することが 可能になるわけですよね。
― じゃあ、本当は個人情報保護法の中に入っていてよかった?
浅岡 よかったんですよ。常識的に 個人情報保護法と住民基本台帳法の改正で作るんだろうなと 思ったわけですよ。 新法作るって けっこう大変なんで。
― 大変そうです。
浅岡 で、社会保障改革担当室っていうのができて、これから法律作んないといけないって なったときに、ぼくら、消費者庁に行ったんですよ。
「個人情報保護法改正しましょうよ」って。
「ぼくらやるんで、迷惑かけませんから」って。
しかし、当時はまだ個人情報保護法の改正への心理的ハードルが高かったのかもしれません。
時を経て、今回は IT総合戦略室が引き取って 個人情報保護法の 改正案を作った。
― そんな背景が。 大変だから?
浅岡 よくわかんないです。 めぐりあわせもありますし。
― じゃあ、番号制度は新法ではなくて、個人情報保護法の改正などで実現していた可能性もあった?
浅岡 あったと思います。
三条委員会は 役所と同じレベルの 組織です
― マイナンバーへの反応をみていると、ちょっと極端なものもあって、「強制的に付与される番号」とか。 ただ、ちょっとどこかに、わからなさからくる恐怖心というのはあるかと。 番号を振られる恐怖というか。
浅岡 でも、もうとっくに振られているんですよ。
今回 何が推進力になったかというと、やはり「消えた年金問題」なわけです。
あれ、「消えた年金問題」って報道されていたけど、あれは情報が消えたわけじゃない。
情報はあるんだけど紐づいてないんですよ。
だから厳密に言えば、「消えた年金問題」じゃなくて、「浮いちゃっている年金問題」というか、「紐づいていない年金問題」なんです。
で、当然のことながら、なぜそんなことが起きたのか、けしからんって、言われるじゃないですか。
そうしたら、や、なんか結婚して名前が変わった人が … とか、引っ越して住所が変わった人が … とか、転職して …
とか、基礎年金番号 2つ持っている人が … とかいう 話になって、おいおい、国は お客様管理を どうやってるんだと。
それで、じゃあ逆に、銀行だったらどうやってるんだ、保険会社だったらどうやってるんだ となった。
そしたら、それは、顧客番号というのがちゃんとあって、名前が変わろうが勤務先が変わろうが住所が変わろうが、追っかけていって、1つの番号で
システム上、管理するからつながるんだ、浮いたりしないのだ と。
いやー、でも そういう番号ないですよねー っていう話に なるわけですよ。
― 住基ネットってあったじゃないですか? あれとは違うんですか?
浅岡 住基の番号から 今回、マイナンバーっていうのは 作られるんですよ。
住基の番号を ランダムに変換して。 住基がなければ マイナンバーはできない。
― 住基ではいけないのですか?
浅岡 いけないというか、住基は住基で 違憲訴訟が59件も起きていて、行政内部で利用する 番号にしている。
マイナンバーは書類に書かれて 目に見える形で民間にも流通する 番号にしないといけないので、より配慮が 必要かと。
マイナンバーとして何を使うのかいいか、パブコメで国民から意見を聞いたのですが、やはり住基の番号をそのまま使うのではなく、新しい番号がいい
という人が 多かった。
― なるほど。
浅岡 悪用された場合などに番号を変更する 必要性などを考えると、住基の番号の番号を 直接使うよりも、住基の番号を 裏において 新たな番号を生成して使った方が より安全な仕組みに なりますから。
― 今回は それを踏まえて。
浅岡 最高裁での 住基ネット合憲判決の合憲理由などを 踏まえて、個人情報を 一元的に管理するような
サーバーを作んない とかですね、なんでもできるようにする わけじゃなくて、ちゃんと利用目的も 限定しますとか。
第三者機関が 独立して取扱いを監視監督します とか、そういうのを やってきたわけですよ。
― 第三者機関ができたというのは そんなに大きなことなのでしょうか。
浅岡 ええ。 やはり今回、反対の声が 大きく広がらなかったのは、「特定個人情報保護委員会」ですね。
この独立した第三者委員会を いわゆる三条委員会形式の 委員会として作ったこと。
これが、まあ当時、日弁連の人たちとも話していましたけど、要するに委員会も作らないで そんなのだめだと。
個人情報保護法のときも 論点になっていたわけですよね。 三条委員会っていうのは 新しい役所を作るっていう 話なんですよ。
― 新しい役所的な位置づけで、三条委員会を …
浅岡 役所的じゃなくて 役所なんですよ。
法律上の建て付けは、国家公安委員会と、公正取引委員会と 特定個人情報保護委員会、なんです。
だから 番号制度が入ることもすごいんですけど、新しい役所ができている。それが すごいんです。
― なるほど。それはちょっとわからなかったです。委員会って言われると、つい ……
浅岡 学級委員会ぐらいのものだと 思っているでしょう?(笑)ちがうんですよ、委員会って名前がついているものでも
いっぱいあるんですよ。 証券取引等監視委員会とか。 それより 独立性も権限も 強力ですからね。 こっちは。
あっちは 役所の中にある 八条委員会。 特定個人情報保護委員会は 既存の役所から独立した 三条委員会。
行革で 役所のスリム化をしましょうって言っている一方で、新しい役所を 作るっていうのは、よっぽどのことなわけです。
あの復興庁だって 時限です。 一定の期間たったらなくなりますという前提で できている。
恒久的な役所を作るなんて 無理だ、できるわけない、と。
三条委員会を作んないとだめだ と言ってきた人たちの多くも 本当に 三条委員会ができると思っていた人は 少なかったんじゃないでしょうか。
だから、番号法が通らないと 三条委員会もできない。
将来、委員会の権限を強化すれば、個人情報の取扱いを 監視監督する独立した機関が 我が国にもできるかもしれないのに、潰していいのかと。
― そんな力技だったのですね ……
浅岡 はい。 番号制度を作るときに 一番力技だったのは、特定個人情報保護委員会を作ることだった。
そこは 本当に力技。
で、番号法の付則に 施行後1年目途に、権限を拡大して個人情報全般の取扱いをみるようにする ことについて 検討するっていう 規定が
あるんですけど、施行後 1年目途って言ったら、来年の 10月目途なんですよ。
だけど、それを1年以上、2年くらい 前倒しして 検討し、個人情報保護委員会を作るという 法案ができましたと …
これも異例でしたよね。 つまり、今回の個人情報保護法改正の 肝って 個人情報保護法委員会を作ること だったわけじゃないですか。
その引き金は 番号法にあるんですよ。 マイナンバー法に。
で、個人的には マイナンバーやるときにできなかったっていうね、やり残したっていう 気持ちがあったわけです。
― いろいろオープンにお話しいただいて、恐れ入ります。
あまり、官僚っぽくないといったら あれですが、なんというか、しっかり お話をしてくださるというか ……
浅岡 マイナンバー制度を 正しく理解していただくためにも、どんどん取材してほしいですよ。
― キャリアの方って みんな こんなフランクな感じなんでしょうか。
浅岡 いやー ……(笑)。
― ストレスが多そうな仕事と思いますが、とてもお元気そうに見えます。
浅岡 やっぱり 役所に就職するとき、僕ら世代って、ワークライフバランスなんて 考えてないわけですよ。
官僚たちの夏に描かれた世界の イメージ、世の中をよくしていきたいって 思い みたいなものがある。
でも実は 役所の中にいても そういう実感ができる仕事に対峙できる機会って そうそうあるわけじゃない。
個人情報保護法、マイナンバー みたいな話は、やりたくても できるわけじゃないですよ。
自分がそこにいる限りにおいては、あとで「なんであのときできなかったのか」っていう
まあ、結果できなかったとしても、やり残した感がないように やりたいって 思います。
― まだしばらくは マイナンバーに人生を捧げていく、と。
浅岡 でも、私も しがない役人なので、明日から別のところで働けって言われたら ……
― そんな御無体な。 いつ異動になるのかわからないのに 毎日全力投球みたいな ……
浅岡 私はどっちかっていうと 専門職じゃなくて、企画屋なんです。 企画を作って実現する。 法律屋ではない。 だから 法律や条文へのこだわりってまったくなくて。 何を実現するのかに 興味がある。
― 専門職だけでは法律はできませんものね。
浅岡 法律家の方々がいて、あと 外で専門的なことを 発信されている方、それから
霞が関の 多くは2年で変わっていく役人、それと 立法府で法律を実際に通して、しかも選挙で選ばれた 国会の先生 ……
そういう人たちの間をうまく通訳して 力を集めてみんな、無理だろうな、でも、やれたらいいよな、と思っていることを
実現できるように コーディネートするのが 僕の仕事だと思っています。
― コーディネーター。フィクサー。あまりメディアには出られていないですよね?
浅岡 役所の人間は 黒子ですからね。
マイナンバー の 未来
― 最後に、マイナンバーの未来などについてお話をうかがって、締めくくれればと思います。
マイナンバーカードは、将来的には 保険証との統合もあったりするのでしょうか?
浅岡 保険証はやりますよ。やる方向で 検討を進めています。
保険証の問題、というか、制度の問題 なのかもしれないけど、保険証は 広く公的な本人確認書類として 認められているんですよね。
でも、本人確認書類としては 十分とは 言えないですよね。
― 偽造できるぞ、と。
浅岡 顔写真もないから、なりすましがで きちゃうじゃないですか。
逃亡中の指名手配犯などもですね、結局偽名で就職して 偽名で保険証をとって、そこからなりすましして 生活できていたり するわけですよ。
結局 そうすると 日本全体の本人確認の仕組みが 今の保険証が 残る限り 緩いままなんですよね。
これをなんとか 顔写真つきの保険証に すると …
個人番号カードを使って それができれば、かなり、制度基盤としての 意味があると思うんです。
個人番号カード は 無料で 住民誰でも取得できる 最強の 本人確認書類ですから。
― 何年かしたら マイナンバーカードなんてあたりまえになって、逆になかったころは どうしていたのだろう? くらいに思う日がくるのかもしれないですね。
浅岡 そうなんですよ。
ITの話というのは 最近になって出てきた話で、気持ち悪いとか、わからないとか、ついていけない、あぶないとか
いろいろあると 思うんですけど、車なんかも そうですけども、他のテクノロジーと同じで、あぶないからやめろと
いうんじゃなくて、どうやったら これをうまく使いこなせるのかっていう 方向 で
やっていかないと いけないんじゃないかって。
そのための 基盤のひとつが マイナンバー制度なんですよ。
昔の 納税者番号とか 国民総背番号というのは、単に番号を振って 行政手続きに書いてくださいねって いうだけだったんだけど、これは
アメリカや 韓国が いい例だったように、本人確認をしなければ、簡単に なりすませてしまう。
だけど 本人確認の基盤がちゃんとあるかっていうと、ないでしょ、と。
だから そこも セットで 整備しないと だめですよね。
せっかく作るんだったら、官だけでやっても 投資対効果も限られる。だから いかに民とつなげていって、官民で
社会的なコストを どう下げていくか。
だって今、金融機関のサイトなんか 見ても、これ本当に 金融機関のサイト なのかっていうような サイトがあるじゃないですか。
― ええ、フィッシングサイトと 見分けがつかないようなところもありますね。
浅岡 大手の金融機関ですら そういうことになっていて、中小、特に 証券会社とか 本当に小さいところは
どうするんだと。
今は そういうところだって ネットで取引できないと 商売にならない。
そういうときに、どれだけ システムのセキュリティに 投資をすればいいの? そんな投資できません、みたいな話に なるわけです。
今回の個人番号カードを 官民で広く使えるようにしましょうって なれば、2020年に向けて、それこそ
世界最先端IT国家創造宣言っていうのを 出していますけど。
― 世界最先端IT国家創造宣言
浅岡 これ、1億2000万人が ICカードを持って 自由に インターネットにアクセスにして、自由に
官民のインターネットサービスを シームレスに受けられる 社会が できたら、これは まちがいなく世界一って 言えると 思うんです。
そこを めざしている。 オプトインで いいんですよ。 民間のサービス は。
これまで通り、銀行の磁気カードを 使いますって人は、それでいい。 個人番号カードと 一体化すればいい という人だけ すればいい。
間違いなく そっちのほうが セキュリティは高い。
― 価値観は 刷新されていくものですしね。
浅岡 ええ。 なので、まず、来年の1月に向けて、事業者としては
対応の見極めって あるんですけど、それって あくまでやらなければならないので やるという、やらされ感がある 話じゃないですか。
そうじゃなくて、このマイナンバー制度 は、民間も使える インフラなんだと。
個人番号カードというのは 民間が使えるインフラなんだと。
これをどう 自分たちの経営と 結び付けていくかという 発想で、これから 個々の事業者が マイナンバーと
どう向き合っていくのか、そういう視点で 考えれば、必ずしも
やらされるだけでなく、前向きに 捉えられると 思うんですよ。
現に 一部の会社からは そういう 問い合わせも来ているんです。
今までは 何をやんなきゃいけないんですかっていう 問い合わせが 圧倒的に多かったです。
ここ 数週間は、「この先、マイナンバーってどうなっていくんですか、自分たちは こういう使い方ができると すごく便利なんですが
こういう使い方はできますか?」なんていう 質問も 出てきています。
― お話を聞いているうちに定着しそうな気がしてきました。
浅岡 定着させないといけないですね。 是非 いろんな人にマイナンバーのことを 分かりやすく伝えていただければと。
― はい! 今日は貴重なお話をありがとうございました。