3月11日以降の首都圏の地震活動の変化について
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以下の酒井准教授ほかによる試算は,2011年9月の地震研究所談話会で発表されたもので,
その際にも報道には取り上げられました.
それ以降,新しい現象が起きたり,新しい計算を行ったわけではありません.
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上記の発表以外に専門家のレビューを受けていません.
また,示された数字は非常に大きな誤差を含んでいることに留意してください.
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試算が示した東北地方太平洋沖地震の誘発地震活動と,
首都直下地震を含む定常的な地震活動との関連性はよくわかっていません.
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当初から明言している通り,このサイトは個々の研究者の
研究成果・解析結果を掲載したものです.
このサイトに掲載されたからといって,地震研究所の見解となるわけではまったくありません.
(研究内容と図の作成:酒井慎一 准教授,構成:大木聖子)
はじめに
大きな地震はめったに起きませんが,小さい地震はたくさん経験されたことがあると思います.
地震の頻度というのは,マグニチュード(M)が小さいほどたくさん起こり,大きくなるほど少ない,という経験則があり,
『グーテンベルク・リヒターの法則』と呼ばれています.
たとえば日本では,おおよそ,M3の地震は一年に10,000回(1時間に1回),M4の地震は年に1,000回(1日に3回),
M5は年に100回(3日に1回),M6は年に10回(1ヶ月に1回)程度となることが知られています.
これを用いると,あくまでも参考にすぎませんが,大きい地震が起こる頻度の目安を得ることができます.
あくまでも目安ですし,大きいマグニチュードについては,グーテンベルク・リヒター則から外れることもよくあると
以前から指摘されている点にはご留意ください.
3月11日前後での首都圏の地震活動
下の左図は3月11日までの半年間(2010年9月11日~2011年3月10日),右図は3月11日以降の半年間(2011年3月11
日~2011年9月10日)の,M3以上の地震の分布をあらわしています(気象庁一元化震源を使用).
3月11日の地震の前後で,地震の数は,47個から
343個に増加しています.
2010年9月11日~2011年3月10日のM3以上の地震の分布(左)と,2011年3月11日~2011年9月11日の地震の分布(右).
47個から343個に増えている.
さて,グーテンベルク・リヒター則によれば,小さい地震が増えることは,大きい地震の数も増えることが考えられます.
数が増えると言っても,大きい地震の頻度は少ないので,大きい地震が起きる『確率が増える』と表現することができるでしょう.
この法則に基づいて,M7程度(具体的には,M6.7-M7.2)の地震の発生確率がどのくらい増えたかを計算すると,
今後30年間に98%となりました.
まったく同じことですが,発生確率が70%に達するのはどのくらい先のことか,という表現に言い換えると,この先4年で70%となりました.
政府公表の『今後30年で70%』とは異なる数値になる理由
ご存知の方も多いと思いますが,文部科学省の地震調査研究推進本部では,南関東のM7程度の地震の発生確率を「今後30年で70%程度」と発表して
きました.
グーテンベルク・リヒター則を用いた本研究の試算「今後30年で98%(あるいは,今後4年で70%)」は,政府発表の値とは異なるものとなっ
ています.
これは算出方法の違いから来ていると言えます.
政府の試算では,過去150年間に起きたM6.7-7.2の地震を数えて,その頻度から確率を求めています(参考:
地震調査研究推進本部の該当ページ (PDF)).
東北地方太平洋沖地震以降,南関東において,M6.7-7.2の地震は起きていませんから,この確率は変わっていません.
一方で,グーテンベルク・リヒター則を用いた本研究の手法については,上述のとおり,小さい地震が増えた数を反映させているため,
両者に違いがでてくるわけです.
また,本研究は「東北地方太平洋沖地震によって誘発された小さい地震から推測されるM7程度の地震」の発生確率を求めたものですが,
政府の想定している首都直下地震は,超巨大地震によって首都圏の地震活動が高まったことによるM7程度の誘発地震は含まれていません.
首都圏の地震活動が高まらなかったとしてもいずれ起きるはずの首都直下地震について試算することは,本研究ではできません.
この点にも両者には違いがあります.
どういう対策をとればいいの?
日本であれば,首都圏に限らず,どこであってもM7程度の地震が起きることが考えられます.
日本の国土は地震によって作られてきました.
日本で暮らす限り,M7程度の地震に備えることは最低条件ですし,逆に,それを繰り返し乗り越えてきたから,今の私たちがあるのです.
日本は,M7程度の地震への対策が技術的に可能な,世界でも数少ない国です.
地震が起きる前,そして起きた瞬間にどうすればいいか,以下をご参考にしてください.
- 地震が起きたら,まず身の安全.
「落ちてこない」「倒れてこない」「移動してこない」場所に身を寄せましょう.
- 揺れがおさまったら,落ち着いて火の元を確認してください.
揺れている最中に無理に消そうとする必要はありません.
- ガラスが割れているかもしれません.
あわてて行動しないように注意してください.
- 窓や戸を開けて,出口を確保してください.
- 門やブロック塀には近寄らないこと.
倒れてくる恐れがあります.
- 家具類の転倒や落下防止をしておきましょう.
これは自己責任です.
- 家の強度を確認しましょう.
1981年6月1日以前に着工した建物は,古い耐震基準で建てられています.
すみやかに耐震診断をうけてください.
多くの自治体が補助をしてくれます.
(自治体の防災課や危機管理室までお問い合わせください.)
- 診断の結果,補強の必要があれば,耐震補強をしてください.
多くの自治体が補助をしてくれます.
(自治体の防災課や危機管理室までお問い合わせください.)
- 地震が起きれば通信機器は使えなくなります.
家族とどう連絡を取るか,ではなく,連絡が取れなくなったときはどうするか,を話し合っておきましょう.
首都直下地震のような直下型の地震の場合は,家屋の倒壊や家具の転倒による死者が8割を占めると言われています.
実際,阪神・淡路大震災の時はそうでした.
逆に言うと,耐震補強をして,家具を留めれば,8割も被害を軽減できるのです.
(学校の耐震化は急務です.)
家屋が倒壊しなければ,火災も発生しにくくなります.
ブロック塀が倒れなければ,消火活動もスムーズになります.
被害はさらに軽減できるでしょう.
M7程度の地震から被害を最小限にとどめることは,ひとりひとりの心がけで可能なのです.
今がその時と思って,対策をとってください.
よくある質問
- Q. 2012年1月23日の読売新聞の朝刊一面に出ましたが,直前に首都圏での地震活動が変化したのでしょうか?
- A. していません.
この研究は,2011年9月の地震研究所談話会で発表された,3月11日以降の首都圏の地震活動の変化を示したもので,その際の試算の値で
す.
また,新聞に掲載された内容は,酒井准教授を中心とした研究グループが試算したもので,このサイトは,2011年9月の地震研究所談話会での
酒井准教授による発表内容をもとに作っています.
- Q. 地震研究所の公式見解ですか?
- A. 違います.
報道されて後,問い合わせが多くあったので用意したサイトです.
ここに掲載されるものは,他のページも含め,地震研究所あるいは研究者コミュニティに認められた内容ということを意味しているわけではありません.
- Q. 「今後30年で98%」と「今後4年で70%」というのは同じ情報なのでしょうか?
- A. はい,同じです.
- Q. 政府発表の「今後30年で70%」と違う結果なのはなぜですか?
- A. 上述の,政府公表の『今後30年で70%』とは異なる数値になる理由をご覧ください.
参考サイト
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